三つの言葉
健太は旅行の途中で、喫茶店にいる。今日は午後三時のバスで町を出る。バスまで、あと二十分しかない。
健太はコーヒーを飲み、席を立つ。テーブルの下に黒いかばんがある。その横に、小さな紙もある。紙には三つの言葉が書いてある。
「赤い傘。パン二つ。七番」
健太は店員の奈々を呼ぶ。
「このかばんは、お店の物ですか」
「いいえ。さっきは女の人が座っていました」
「どんな人ですか」
「よく見ていません。すみません」
健太は紙を見せる。
「赤い傘を持っていましたか」
「はい。赤い傘でした」
「パンを食べていましたか」
「いいえ。でも、パンの店を聞きました」
「七番は何ですか」
奈々は窓の外を見る。
「七番のバスかもしれません」
健太は黒いかばんを持つ。
「警察に持って行きますか」
「七番のバスは、もうすぐ出ます」
「では、先に見てきます」
健太は店を出て、バスの所へ走る。七番のバスの前に、三人がいる。一人は赤い傘を持っている。けれど、その人は男だ。
健太は男に聞く。
「黒いかばんをなくしましたか」
「いいえ。この傘は妻の物です」
男の後ろから、女の人が来る。手にはパンが一つだけある。
健太は聞く。
「パンを二つ買いましたか」
「はい。一つはもう食べました」
「七番のバスに乗りますか」
「はい。でも、切符がありません」
女の人はポケットを何度も見る。健太は黒いかばんを見せる。
「これは、あなたのかばんですか」
「私のです。中に財布があります」
「紙もテーブルの下にありました」
女の人は紙を見る。
「買い物の紙です。赤い傘と、パン二つです」
健太は最後の言葉を指す。
「七番は何ですか」
「家に帰るバスです」
女の人はかばんを開ける。財布と七番の切符が中にある。バスのベルが鳴る。
「ありがとうございます。お名前は」
「健太です。早く乗ってください」
女の人はかばんを持ち、七番のバスに乗る。ドアの前で、パンを一つ上げる。
「健太さん、これはあなたにあげます」