傘を待つ
金沢の町に雨が降っている。今日は由美の新しい仕事の初めの日だ。由美は家を出て、道のそばでバスを待っている。手には大きな傘がある。かばんにはお金と昼御飯がある。
女の人が道を歩いて来る。女の人の服は雨でぬれている。女の人は由美の前で止まる。
「すみません。あそこまで行きたいです。傘を貸して下さい」
「どこまでですか」
「あの店です。すぐそこです」
「私はここでバスを待っています」
「すぐ返します」
由美は女の人を見る。女の人の手には傘がない。道には雨がたくさん降っている。由美は傘を渡す。
「では、これを使って下さい」
「ありがとうございます。すぐ返します」
女の人は道を歩いて行く。由美はバスを待つ。雨はまだ降っている。由美の頭と上着が少しぬれる。
バスが来る所に人が二人並ぶ。由美は時計を見る。仕事の時間が近い。女の人はまだ来ない。
「由美さん、バスが来ますよ」
後ろの男の人が言う。由美は女の人が行った道を見る。
「すみません。私は傘を待っています」
「傘ですか」
「はい。女の人に貸しました」
「バスに乗らないのですか」
「乗りたいです。でも、傘が要ります」
バスが近くに止まる。男の人はバスに乗る。由美は一人で道を見る。雨は強くなる。
女の人が走って来る。手に傘がある。
「すみません。遅くなりました」
「大丈夫です。ありがとうございます」
「こちらこそ、ありがとうございます」
由美は傘を取る。女の人は由美のぬれた上着を見る。
「この傘を使いますか」
「いいえ。あなたが使って下さい」
「でも、あなたは仕事へ行きますね」
「はい。でも、あなたも帰りますね」
女の人は傘を由美に渡す。バスがまた来る。二人は一緒にバスに乗る。由美は女の人の隣に座る。女の人は小さい声で言う。
「今日は、傘があってよかったです」
「はい。私もです」