四十歳の試合
今日は光が四十歳で初めて試合をする日だ。光は会社でお金の仕事をしている。去年から毎晩、近くの店でボクシングの練習をしている。家では妻が心配している。今朝、光は台所でごはんを食べる。
「今日は試合ですね。体は大丈夫ですか」
「大丈夫です。少し疲れています」
「四十歳の体です。無理はしないでください」
「はい。でも、試合には出ます」
妻は光の手を見る。手には白いテープがついている。
「仕事は明日です。負けたら、どうしますか」
「帰って、寝ます」
「勝ったら、どうしますか」
「帰って、寝ます」
妻は少し笑う。光はお茶を飲む。
昼、光は店に入る。相手の健がもう来ている。健は光より若く、体が大きい。
「光さん、今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「四十歳で初めての試合ですか」
「はい。健さんは何度目ですか」
「三度目です。でも、今日は簡単ではないです」
「私も簡単だとは思っていません」
先生が二人を呼ぶ。
「光、最初はゆっくりです。健、強く打ちすぎないでください」
「はい」と二人が言う。
ベルが鳴る。健の手が光の顔に当たる。光は後ろへ下がる。息が苦しい。二度目のベルが鳴る。光は足が重い。それでも前へ行く。
「光さん、大丈夫ですか」
「大丈夫です。続けてください」
光は一度、健の体に手を当てる。健も下がる。
最後のベルが鳴る。光は椅子に座る。手が痛く、足も痛い。
先生が結果を伝える。
「健さんの勝ちです」
「はい。ありがとうございました」
健が光に頭を下げる。
「光さん、また試合をしますか」
光は時計を見る。明日は会社がある。
「はい。仕事の後で、また練習します」
帰る前に、光は妻へ電話をする。
「負けました」
「体は大丈夫ですか」
「手と足が痛いです。でも、歩けます」
「では、早く帰ってください」
「はい。今、帰ります」
光は手袋をかばんに入れ、ゆっくり店を出る。