最初の切符
今日は蓮の初めての仕事の日だ。高校を卒業した蓮は、町の映画館にいる。受付には、同じ年の美月が立っている。蓮は前から美月が好きだ。
部長の黒田が、切符の箱を置く。「切符を一枚取って、番号を見てください」
「はい。見た後はどうしますか」
「切符をお客さんに返します」
「それだけですか」
「それだけです。でも、なくさないでください」
美月が小さな声で言う。「前の人は、百枚なくしたよ」
「百枚?」
「二枚だよ」と黒田が言う。
最初の客が来る。蓮は切符を受け取り、番号を見る。「二階の三番です。どうぞ」
「三階じゃないですか」と客が聞く。
蓮はもう一度見る。「すみません。三階です」
黒田はすぐに言う。「この映画の最後は三階だ。男が長い階段を上がる」
客は黒田の顔を見る。「もう見たんですか」
「二十回見ました」
次の客が来る。美月が蓮の横に立つ。「今度は何階?」
蓮は切符を見る。「二階の七番です」
黒田が言う。「この映画は二階だ。女が七つの手紙を読む」
客が笑う。「部長さん、全部言わないでください」
「まだ最初だけです」と黒田は答える。
客が中へ行く。蓮は美月に小さな声で聞く。「黒田さんは、全部の映画を覚えているの?」
「全部。音楽も覚えているよ」
黒田がこちらを見る。「聞こえています」
三人目の客が来る。若い女性が二枚の切符を出す。「一人がまだ来ません」
蓮は時計を見る。「映画はあと五分で始まります」
女性は電話を見る。「もう帰ろうかな」
黒田は何も言わず、入口を開けて待つ。
その時、外から若い男性が走って来る。「ごめん。電車を間違えた」
女性は切符を一枚渡す。「次は私が先に入るよ」
二人は一緒に中へ入る。
美月が蓮に聞く。「仕事の後、映画を見る?」
「二人で?」
「黒田さんも見ると思う」
黒田が切符の箱を持ち上げる。「私はその映画を三十回見ました」
蓮は美月の切符を一枚取り、「二階の七番です」と言う。