なくした物の棚 長野の小さな町に、美紀が一人で働くコインランドリーがあった。店には洗濯機が六台と乾燥機が四台あり、窓の横には古い木の棚があった。 この店では、洗濯が終わると、服と一緒になくした物が一つ出てきた。昨日なくした鍵が出る日もあれば、子供のころになくした人形が出る日もあった。客が気づかずに帰った物は、美紀が日付を書いた紙と一緒に棚へ置いた。 棚には青い手袋、銀の指輪、古い写真、小さな時計などが並んでいた。美紀は毎朝、その棚をきれいにしてから仕事を始めた。 ある寒い朝、空という若い女性が大きなバッグを持って店へ入ってきた。空は白いシャツを三枚出して、三番の洗濯機に入れた。 「今日は新しい仕事の最初の日なんです」と空は言った。 「それは大事な日ですね。仕事は何時からですか」と美紀は聞いた。 「十二時からです。近くのパン屋で働きます」 「では、十分に間に合いますよ」 美紀がそう言った直後、三番の洗濯機から大きな音がした。洗濯機は一度強く動き、それから完全に止まった。中には水が残り、ドアも開かなかった。 空は時計を見てから、洗濯機の前にしゃがんだ。 「すみません。このシャツしか持っていないんです」 「すぐに確認します。少し待ってください」 美紀は電気を切り、機械の後ろや下を調べた。しかし、原因は分からなかった。修理の店へ電話すると、来られるのは夕方だと言われた。 「夕方では困ります」と空は小さな声で言った。 「本当に申し訳ありません。何とか開けてみます」 美紀は道具の箱を持ってきて、機械の下の板を外した。だが、手が油で黒くなっただけで、ドアは動かなかった。 空は立ち上がり、木の棚を見た。 「この棚の物は、全部あの話の物ですか」 「はい。洗濯すると、なくした物が一つ戻ってくるんです」 「でも、持ち主が来なかったら、ずっとここに置くんですか」 「置ける間は置きます。何年も後で来る人もいますから」 空は棚の古い時計に指を近づけたが、触らずに手を下ろした。 「機械は物を覚えているのに、直し方は教えてくれないんですね」 その言葉を聞いて、美紀は黒くなった自分のエプロンを見た。油を取るため、美紀はエプロンを一番の洗濯機に入れた。それから三番の前へ戻り、もう一度道具の箱を開いた。 「私の家に白いシャツがあります」と美紀は言った。 「店を一人にできないでしょう」 「そうですね。でも、何もしないよりはいいです」 空は首を横に振った。 「まず、洗濯機をもう一度見ましょう。私も手伝います」 二人が床に座って機械を見ていると、一番の洗濯機が止まった。美紀がドアを開けると、きれいになったエプロンの上に青いノートがあった。 美紀はノートを持ったまま、しばらく動かなかった。 「それも、なくした物ですか」と空が聞いた。 「七年前になくした修理のノートです。前の店長から教わったことを、全部このノートに書きました」 美紀は急いでページを開いた。洗濯機の絵と数字があり、ドアが開かない場合の方法も書いてあった。 「ここです。右下の小さなボタンを押してから、電気を入れ直します」 「私が電気を見ます。美紀さんはボタンをお願いします」 二人は声をかけながら、書いてある通りに動いた。美紀がボタンを押すと、三番の洗濯機が低い音を出した。中の水が少しずつ減り、止まっていた洗濯が再び始まった。 「動きました」と空が言った。 「まだ安心できません。最後までここで見ます」 二人は椅子に並んで座り、丸い窓の中で回る白いシャツを見た。空は何度も時計を見たが、美紀は青いノートから目を離さなかった。 洗濯が終わると、ドアは普通に開いた。三枚のシャツの上には、小さな赤いボタンが一つ乗っていた。 空はそのボタンを手に取り、表と裏を確かめた。 「子供のころ、一番好きだったコートのボタンです。なくした日に、母と町中を探しました」 「今日まで、ずいぶん時間がかかりましたね」 「でも、仕事の最初の日に戻ってきました」 美紀は乾燥機にシャツを入れ、空は店のトイレで一枚に着替えた。十一時半になる前に、空は乾いたシャツをバッグへ入れた。 「間に合います。本当にありがとうございました」 「こちらこそ、手伝ってくれてありがとうございました。最初の仕事、うまくいくといいですね」 空は赤いボタンをポケットに入れ、店を出た。 午後、美紀は青いノートを棚へ持っていった。しかし、青い手袋の横へ置く前に、少し考えた。美紀はノートを棚ではなく、仕事の机の一番上に置いた。 夕方、空が紙の袋を持って戻ってきた。 「パン屋で作ったパンをもらいました。一つ、どうぞ」 「仕事はどうでしたか」 「忙しかったです。でも、白いシャツは最後まで白いままでした」 そのとき、年を取った男性が店へ入り、棚を見ながら帽子を取った。 「青い手袋は、まだありますか」 美紀は棚の上から二番目を指した。 「はい。ずっと待っていましたよ」