四人目の稽古
仙台の小さな道場に、雨の音が聞こえた。佐伯は三人の生徒を前に、竹刀を持って立っていた。由衣と健と春は、仕事の後で稽古に来ていた。三人とも、来月もここで稽古を続けたいと言っていた。
戸が開き、年を取った男が入ってきた。「大野です。先月、会社をやめました。三十年、駐車場で一人で剣道の稽古をしてきました」。大野は自分の竹刀を見せた。「佐伯先生、一本お願いします。私が勝ったら、この三人を教えさせてください」。健が佐伯を見た。佐伯は「三人が望むなら、そうしましょう」と答えた。
佐伯はまず、いつもの稽古を続けた。「春、面を打ってください。由衣は右へ一歩出て、胴を打ちます」。春の竹刀が上がり、由衣は急いで右へ動いた。由衣の竹刀は春に届かなかった。「急がなくていい。春の足を見て」と佐伯は言った。春がもう一度前へ出た。今度は由衣の右足が静かに動き、竹刀が春の胴に当たった。大野は戸のそばで、二人の足を見ていた。
佐伯と大野は防具を着け、向かい合った。健が「始め」と言った。大野はまっすぐ前へ出たが、竹刀は佐伯の面に届かなかった。大野は少し近づき、もう一度前へ出た。佐伯は大野の足を見た。大野の竹刀が上がると、佐伯は右へ一歩出て、胴を打った。健が「一本」と言った。
大野は面を外し、床に座った。「一人では、相手がどこまで来るか分かりませんね」。由衣が「明日も来ますか」と聞いた。大野は佐伯を見た。佐伯が「竹刀を持ってきてください」と言うと、大野は立ち上がり、三人の列の後ろに並んだ。