白石峠を越える日
朝、白石峠の下の家で、直人と亮は荷物を持つ。兄の直人は二十八歳で、弟の亮は二十歳だ。今日は雪の前の日だ。明日から雪で道がなくなる。二人は峠の向こうの村へ行く。
母は玄関で言う。「雪が来る前に帰ってください」
「はい。夕方までに帰ります」と直人は言う。
亮は時計を見る。「兄さん、行こう」
「うん。行こう」
二人は山の道を歩く。道は細く、雨でぬれている。右には深い川がある。古い橋の前で、橋の木が折れている。
「橋がない」と亮が言う。
「川を渡るしかない」と直人が言う。
「水が多い。危ない」
「ロープを使う。私が先に行く」
直人は荷物を下ろし、木にロープをつける。川の水は冷たい。直人はゆっくり川を渡る。亮はロープを持つ。直人が向こうに着くと、亮も川に入る。風が強くなる。亮の足が石で滑る。
「亮、動かないでください」
「兄さん、手をください」
「手を出す。大丈夫だ」
直人は亮の手をつかむ。二人は川を出る。亮の靴から水が出る。道は山の上へ続く。二人はまた歩く。
昼、雪が少し降る。直人は足を止める。
「兄さん、休みますか」
「いや、まだ行ける」
「足が痛いでしょう」
「少し痛い。でも行く」
上へ行くほど、雪が多くなる。風で道が見えない。直人は石につまずき、雪の中に倒れる。亮は直人の荷物を取る。
「兄さん、立ってください」
「亮、先に行ってくれ」
「行きません。二人で行きます」
直人は立とうとするが、足が動かない。亮は直人を背中に乗せる。荷物を前に持ち、雪の道を歩く。夕方、二人は白石峠に着く。向こうに小さな家の明かりが見える。
「亮、もう帰れないな」
「はい。でも、向こうへ行けます」
朝は直人が先に歩いた。今は亮が先に歩く。直人は亮の背中で、峠の向こうを見る。亮は雪の中で、家の明かりへ歩き続ける。